10年前野球部からいじめられてた俺が、少女に出会って人生368度変わった話

ネタ

引用元:https://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/livejupiter/1754484322/

していいか?
書き溜めてないから遅くなる
すまない
この記事への反応
「おい、ボール拾ってこいよ」
「お前、またエラーしてたろ。連帯責任な」
「グラウンド100周、今すぐな。走り終わるまで誰も帰れねえってさ」

野球部にいた頃の俺は、部員というより「奴隷」だった。
「1年は道具じゃねぇ、空気だ」と言われ、名前で呼ばれたことすらない。
怒鳴られ、殴られ、道具を投げつけられ、理不尽に怒鳴られた。
監督も先輩も誰も止めはしない。
いや、むしろ推奨していた。そういう部風だった。

俺はクラスでも浮いていた。
友達なんて一人もいなかったし、話しかけられるのはだいたい何かの「命令」のときだけだった。

「なあ、お前今日ファミマでアメリカンドッグ買ってこいよ。ケチャップ2個な」
「掃除当番変われよ、俺いそがしーんだわ」
「つかお前、誰?w」

人間の皮をかぶったサルたちの中で、俺は透明な空気だった。

空気にも色があるなら、俺はきっと泥水のような色をしていたと思う。
そんな俺に、明確に牙を剥いてきたのが「A・B・C・K田」だった。

A・B・C・K田。
もちろん本名じゃない。
だが、俺の中で彼はそうとしか呼べなかった。

A:足が速い
B:部活の主将(野球部)
C:チヤホヤされてる
K田:苗字の最初の一文字

誰もが「すごいよね」「将来プロ行くかもよ!」と持ち上げていた。
教師ですら、彼の機嫌をうかがっていた。

けれど、A・B・C・K田の本性を知っていたのは俺だった。
奴は「弱い者を潰すことで、自分の立場を確認するタイプ」だった。
ターゲットはいつも、孤立していて、声を上げないやつ。

俺はその代表例だった。

そんな俺がある日、日課のコインランドリー清掃に訪れたとき――
そこで、少女に出会った。

それは本当に、なんでもない雨上がりの夕方だった。
薄汚れたガラス越しに差し込む西日が、埃を金色に染めていた。

そのとき、いつも誰もいないはずの一角のベンチに、彼女は座っていた。
まだ小学生くらいに見えた。白いワンピースに、異様なほど長い黒髪。
まるで、あの風景にだけは属していない、別の世界の生き物のようだった。

ぞくりとした。
意味がわからない。けど、なぜか、ドクンと心臓が鳴った。

「……は?」

「復讐しようとしてる。誰かに。たぶん……もう、決めてるでしょ?」

俺は、言葉が出なかった。
冷や汗が首筋を伝った。
この少女は、何を知っている?
俺はそんな素振り、誰にも見せていないはずだ。
野球部にされたことも、A・B・C・K田に対する憎しみも。

「名前、なんて言うの?」

目玉焼きが乗っていた。
黄身はほどよく半熟で、ナイフを入れたらとろりとカレーの海に流れ込むだろう。
俺はスプーンを握った。

ひと口、食べる。
カレーの熱が舌を包み、玉ねぎの甘さが、焦げた肉の香りと一緒に広がった。

うまい。
なんだこれは。
死ぬほど、うまい。

涙が出そうになった。
いや、少しだけ、出た。
でもそれは、スパイスのせいということにした

それから数日後の俺は、何もなかったかのように家に帰った。

靴を脱ぎ、洗面所で手を洗い、リビングの蛍光灯をつける。
母の姿はない。夜勤の日だった。
食卓の上に、ラップをかけられた皿がぽつんと置いてある。

カレーだった。
湯気がうっすら曇らせたラップ越しに、あの色と香りが見えた。
カレーの上には、俺の好きな硬めの目玉焼きが一枚、ちょこんと乗っていた。

カレーを食べたとき、俺はふと少女との会話を思い出した

俺は、言葉が出なかった。
冷や汗が首筋を伝った。
この少女は、何を知っている?
俺はそんな素振り、誰にも見せていないはずだ。
野球部にされたことも、A・B・C・K田に対する憎しみも。

「名前、なんて言うの?」

今度は、俺が聞き返した。
自分でも声が震えているのがわかった。

「さっき言ったよ。小夜。夜の“夜”って書くんだよ」
少女は笑った。
その笑顔が、どこか空っぽに見えた。

その日からだ。
俺と小夜の、歪んだ復讐劇が始まったのは――
その週の金曜日。
部活が終わったあと、K田の靴が消えた。
下駄箱の中には、ビニール袋に入った“何かの内臓”のようなものが入っていた。
(もちろん本物じゃない。スーパーの鶏レバーを干しただけだ)

担任が警察沙汰にするか迷ったという噂も聞いた。
K田は誰かを疑ったが、証拠はない。
そりゃそうだ。
すべては“俺”がやったわけじゃないから。

俺の部屋の窓をノックする音。
深夜0時。
開けると、そこには小夜がいた。
数日前に話は遡る。
あの小夜と出会う前――
俺は、K田にとって“都合のいいゴミ”として、まだ地面を這いつくばっていた。

その日、昼休み。
教室の隅でパンを食べていた俺に、K田が声をかけてきた。

「なあ、お前さぁ…昨日の部活、ちゃんとグラウンド整備してた?」
「……したけど」
「いや、してなかったよな?」
「……え?」
「してなかったよな?」

K田の声が、スピーカー越しみたいに響いた。
すぐに、周囲の取り巻きどもが笑い出した。

「やべー、こいつガチで顔ひきつってんじゃん」
「カレーの食いすぎで脳溶けたんじゃね?w」

K田は俺の机の上のパンを指差した。

「それ、昨日も食ってたろ。俺、飽きた。代わりにそれ食うわ」

言葉の意味が理解できたときには、すでにパンは奪われていた。
包装紙ごと丸められ、黒板の方に投げられた。
「ゴミ箱シュート!外した~w」
誰かがふざけた声で実況していた。

家に帰って、カレーを食べた。
母の作ってくれた、硬めの目玉焼きが乗ったカレー。

黄身は完全に火が通っていて、切ってもとろけたりしない。
白身のふちには、カリッとした焼き目がついていて、スプーンの先で軽く押すと、微かに抵抗を返してくる。
それが、俺は好きだった。

温めなおした皿から立ちのぼる匂いは、どこか懐かしい香りがした。
スパイスの奥にある甘さ。人参が煮崩れた匂い。
そして、まだ固さの残るじゃがいも――
どれも、料理としての完成度ではなく、「俺のために」作られた味だった。

ひとくち、口に運ぶ。
うまい。
なんでこんなにうまいんだろうって、思った。

昼に食べ損ねたパン。
靴の中の死骸。
嗤うクラスメイト。
K田の顔。

すべてが、カレーの湯気に、しばらくのあいだだけ、遠ざかった。
まるで、それらが夢だったみたいに。

でも現実は、明日も俺を踏みにじってくる。

だから俺は、踏み返すしかない。

皿を洗いながら、そう思った。
目玉焼きの焦げ跡が、皿のふちに薄く残っていた。
スポンジでそれをこすりながら、俺は心の中で、何度も名前を唱えた。

A・B・C・K田は、急だった。
ある朝、ホームルームで担任が口を開いた。

「えー……K田くんは、今日から来ません。遠くの高校の推薦が決まったそうで」

教室がざわついた。
でも、誰も本気で驚いているようには見えなかった。
むしろ、ホッとしたような顔すらあった。

その後を追うように、K田の取り巻きだった3人も、次々に姿を消した。
ひとりは親の仕事の転勤。
ひとりは“体調不良で療養”。
もうひとりは、連絡が取れないまま退学したらしい。

でも、誰も気にしなかった。
生徒も教師も、K田がいた頃の空気を思い出したくなかったのだろう。
少なくとも、表面上は静かにすべてが終わったことになっていた。
「奴の“ヒーローイメージ”を壊す。周囲から信頼を失わせて、孤立させる。
そうやって少しずつ、“俺がされてきたこと”を思い知らせてやる」

小夜は、首をこくりと縦に振った。

「じゃあ、次は“嘘”を撒こう」
「嘘?」
「うん。信じる人が多ければ、それは“真実”になる」

次の標的は、K田の人間関係だった。
SNSに偽アカウントを作り、彼が同級生の女子に送ったことになっている“やばいDM”を拡散した。
チャット履歴のスクショ画像をねつ造するのなんて、正直簡単だった。
AIとPhotoshopを使えば、人間の信用なんて造作もなく壊れる。

その後、俺も転校した。
いじめが原因じゃない。表向きは“家庭の事情”だった。

母が言った。

「おばあちゃん、亡くなったって。すぐ来てほしいって、おじいちゃんから電話があったの」

会ったこともほとんどない祖父。
ずっと田舎に住んでいて、母も滅多に連絡をとらなかった。
けれど、そういうときだけは、血縁というものが顔を出すらしい。

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